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共に歩める、頼れるかぁちゃん団

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共に歩める、頼れるかぁちゃん団

2019/12/02

子どもたちを見ていると、ふと「自分も、あの人も、赤ちゃんだった」と思う瞬間がある。誰もが、小さくてかけがえのない命だ。子どもとともに生きていると、家族や周囲に愛され、見守られて生きているというようなあたり前のことに気づくことができたり、人のことを愛おしく思えることがある。ところが、全ての人にそれは共通ではなく、世の中には隠れた悲しい現実も多い。それが明らかになり、悲惨な事件を目のあたりにして涙することも多い。

2018年には、地域課題の解決に取り組む公益活動を顕彰する「やまがた公益大賞」のグランプリに輝いた「明日のたね」。彼らの活動について紹介する後編では、多世代、多文化、多分野にわたる交流の機会を展開するための、努力や苦労の話も交えてお届けする。(前編はこちら

主催者でも参加者でもない、同じおかあさん

理容師、水泳のインストラクター、医療事務。はじまりは、そんな肩書をもった3人の主婦だった。「NPO法人 明日のたね」代表理事の伊藤和美さんと、丹治亜香音さんに会いにゆくと、彼らの使命でもある<子そだてがもっと楽しくなる庄内地域を育む>ための〝種まき〟のお話を、愉快に楽しく、そして涙ありで話してくださった。

伊藤さんは自身の経験から、自信をなくしがちなおかあさんたちの〝わたしのあり方〟についても、「きらりカレッジ」など女性のための学びの場を開催し、応援する。内容は、自分たちらしい働き方を考えたり、ライターによる講座で伝え方のスキルアップを学んだり。子そだての先に待ち受ける再就職や生き方について、誰かとともに考える機会があるのは、ママにとって本当にありがたい。

スタッフの鈴木愛さんは「明日のたね」主催のマルシェなどへ子どもと一緒に参加するごとに、伊藤さんや丹治さんの思いや活動に刺激をうけ、1年前からスタッフとして働いている。「いろんな人を巻き込んでなにかを実行する力のある、とっても魅力のあるメンバーなんです。たとえば味噌づくりでは地元で採れた大豆の選別から行なったんですが、子どもの主体性のために余計な手を出したりしないんです。子どもたちが遊んでいる様子をきちんと見守る、だけどゆったり。とっても居心地のいい場所だなぁと、私が救われたことを強くおぼえています」と、愛さんは目をキラキラさせて話してくださった。

「みんなと同じおかあさんとして、子どもの暮らしを守る。子どもの感覚を守ることを大事にしたい。イベントもそうですが、私たちはいつもオープンなので、遠慮することなく困っているときに声をかけてほしいんです。大人にとっても子どもにとっても安心安全な場所でありたい」。いつしか取材をするこちらまでホッとして、のんびり過ごしてしまっていたのは、やはり彼らの醸し出す空気ゆえだろう。

写真左:メンバーの防災士資格を生かし、親子などを対象に災害時の心得や対処方法を伝える活動も
写真右:ママをはじめとする女性たちの学びの機会〝キラリカレッジ〟など、積極的に行なっている

苦楽もどんと来い。使命感をまっすぐ突き進む

「自分の子どもが学童に入れなかったときの悔しさや、そのときの施設側の対応にガッカリしたこともありました。子そだてするのにやさしくない環境だと感じたし〝支援してもらった〟という体験はあまりなかった」と話すのは、丹治さん。彼女が現在のような社会活動へと傾倒してゆくきっかけは、こうした悔しい思いだったという。

「できることより、できないことのほうが多いですよ」と謙遜する伊藤さんだが、「明日のたね」たちあげ時から丹治さんらと、何のための活動か?どうしてそう考えるのか?など、とにかく徹底的に話し合い納得し、思いを共有して今日に至る。そんな二人だからこそ、2018年の「やまがた公益大賞」グランプリ獲得は「嬉しかった」と実感がこもっていた。なにより丹治さんの目に涙、つづいて伊藤さんも……と、言葉以上にその様子が、日々の苦楽を物語っていた。

創設メンバー3人のうち一人は、いまも副理事として見守る立場にいるものの、さまざまな事情も重なって他の仕事に従事しているという。実状、伊藤さんも丹治さんも鈴木さんも「明日のたね」以外の仕事も兼務している。賛助会員らの寄付などで成り立つ彼らの資金も賃金も潤沢なわけではない。それでも「私たちの活動はまだ必要だと思うから続けています。まだまだ社会が変わっていないので」と、みんなと共に生きる社会を目指している伊藤さんらの思いは、やさしくて堅い。

写真左:お風呂託児は、長沼温泉ぽっぽの湯と恊働で実施する人気のイベント。託児中ママたちは湯ったりホッ
写真右:20畳ほどの広い部屋にテーブルや座布団を並べて、お茶飲みながらゆっくり。安心できる光景だ

不足分は補えばいい、めだかの学校になれば、いい

「長沼ともにひろば」では毎週月曜に、主に地域のおばあちゃんたちが参加する「体そう」を行なっている。春や秋には、その仲間たちとバスを借りてお花見などへ出かけているそうだが、今回はじめて「工場見学」へ出かけると聞きご一緒させていただいた。参加者9名スタッフ3名で、「山形県自動車販売店リサイクルセンター」で車の解体作業やパーツ類の再利用の様子を見学。昼食後は警察署にて高齢者の運転についての現状の話や交通安全指導などを受け、日帰りバスツアーが終了。ほどよくゆっくり、ときどき荷物を持つなどして、体調を気づかい参加者の様子をしっかり見守りながら、みんなでいっしょに楽しんで過ごした。

「困ったことないかー」と、長沼ともに広場へふらりやってきてから交流がはじまったという阿部健治郎さんから、ツアーの道中お話を聞くことができた。阿部さんにとっても〝たね〟の皆さんの存在はとても嬉しいようで「めだかの学校になればいい。だれが生徒で先生でもよくて、みんなで一緒に、一つひとつやっていけばいいんだから」と、すっかり見守役としていてくださっているようだった。

彼らが目的をもって確かに築くたくさんの機会の一つひとつが種となり、だれかが元気をくれたり、自分がそのだれかになることで水を与えあい、可能性にあふれた学びのチャンスや嬉しい出会いで花開く。そんな庄内の美しい未来が、「明日のたね」の日常の一つひとつから培われてゆくのだろう。

写真左:リサイクルセンター訪問に同行。ご夫人方のペースに合わせ、穏やかに朗らかに見学が行なわれていた
写真右:「明日のたね」が企画する機会をふくめ、普段からふれあいも多いご夫人たち。生き生きしていて元気

NPO法人 明日のたね
鶴岡市長沼字宮前163(長沼ともにひろば)
Tel.0235-64-8623

この記事を書いた人

Honma Kaoru

鶴岡と新潟・村上市の境の集落に嫁ぎ、子そだてに嬉しい発見の日々を送る。九州と東京の2都市育ち、嫁入り直前の京都暮らしを恋しく思いながら、庄内の魅力を見つけて伝えたい(あわよくば自転車で)と願っている自転車アクティビスト、編集者・ライター。

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