01<女性>
農家/「株式会社あじまん」正社員
高橋 夕子さん(酒田市)
酒田の「花き農家」であり、山形の人にはおなじみの大判焼き「株式会社あじまん」(以下「あじまん」)で正社員として働いている高橋夕子さん。夕子さんは「農家だから融通がきくんです」と、さらり。彼女の、農家の仕事+冬季の仕事を兼業する働き方は〝私の性に合っている〟のだそう。高橋夕子さんのお話を、聞いてみましょう。
夕子さんの嫁ぎ先は「花き農家」で、ユリの花を中心にカラーやフリージア、ラナンキュラスなどの花と、合間にいちごなどの栽培・収穫を行なっている。季節によって異なるとはいえ、多い時は17棟のハウスが稼働する。結婚した当初は、地元の洋菓子店でパティシエとして働きながら、夫を早朝から手伝い、収穫から箱詰めまでしっかりサポート。農家仕事は主に夫が担っていたので、夕子さんの役割はおのずと夫の手伝いと家事、というのが高橋家流だった。
数年後に洋菓子店をやめた夕子さんだったが、夫は農家、夕子さんは収穫のサポートと家事と役割分担もできていた。そんななか、何か自分らしい仕事をしたいという思いと、調理師免許をいかして集団調理をやってみたいという思いもあり、「あじまん」で働くことに。農閑期の冬仕事として始まった「あじまん」は、9月下旬から4月中旬までの冬季営業だ。「冬季は育苗などの仕事はありますが収穫仕事は多くなく、ちょうど良かったんです」と振り返る。
その後、子どもが生まれ、仕事のかけもちと家事に育児も加わった。早起きして朝食と昼食も準備し、寝ている子を車に乗せて収穫を手伝うこともあったという。「結婚して15年は農家の嫁だから、とがむしゃらに働いてきました。でもここ数年は、農家の仕事はいい意味で適当に、と割り切ることで私らしく動くことができているように思います」。頑張りすぎない〝適当さ〟は、いまの両立生活の鍵を握っているようだ。
「あじまん」は、それこそ元気な先輩ママも活躍する職場だ。40代の夕子さんは中堅の立場にあり、今では大判焼きの製造・販売に加えて新人研修なども担っている。「作りながら売るのはけっこう大変。その日の人出を予想して作らなくちゃならないんです。だから、その予想が当たったときの達成感、よし!という気分になります。寒いなか温かいものを手にしてホッとするお客さんの表情をみれば、こちらも嬉しくなりますしね」。夕子さんの話は、仕事へのやりがいに加え、20-30代の若いスタッフの働きやすさや会社全体のことに及んだ。
子どもの学校行事、スポ少などで休みを取ることもしばしば。そんな子育て世代にとって働きやすさを実感する一つに、休みの取得しやすさがある。その点「あじまん」は、同僚スタッフと休みの希望を融通しあって調整できるので、プライベートも充実できる。また、普段から従業員同士コミュニケーションを図っていて、子どもの急な発熱にも対応してもらいやすい。働きやすい職場と感じているそうだ。
夕子さんのとある1日の過ごし方を聞いてみると、早朝5時起きで朝昼晩の食事の支度(夫が収穫している間に)、「あじまん」出勤までは収穫したものの調整などを手伝う。仕事の後、学校の終業時間に合わせて子どもの迎えにいき、夕飯を食べてからサッカーの練習へ送っていく。なんとも目まぐるしく感じられる1日だけど、夕子さんは〝分刻みで仕事をすることが得意〟だそうで「大変なこともありますが、練習を見ている時間は楽しいんです」と、軽やかだ。
農家のサポート役と、冬季は正社員。この二つの顔を持ち合わせて13年目。仕事にも子育てにも全力で取り組みながら〝楽しもう〟とする心の余裕がようやく出てきたという夕子さん。いくつもの顔を持って生きる秘訣は、頑張る自分と楽しむ自分のどちらも持ち合わせることだろうか。力が入りすぎていない様子で迷いがなく、とっても凛々しかった。
男女を問わず、キャリアの途中で子育てや介護などに直面することがある。私たちはその変化に伴って、人生やキャリアの選択を一つひとつ行いながら、パズルのように組みあげて生きている。夕子さん家族の生活と仕事のパズルも、子どもの成長とともに変化しているそうだ。
「息子がサッカーに夢中になるにつれ、親が手助けする機会が格段に増えています。親は子のためにあるんだなぁと、実感します」。そこで高橋家では、子どものリズムに合わせて生活をチューニング。練習への送迎や付き添いを夕子さんと手分けするため、夫は花の成長を予測しながら観察することで生産量を減らす調整をしているそう。「量を少なくしてよりよい商品を作りなさいと、母もよく言うんです」。
農家仕事と暮らしの足並みは、息子さんに揃えて。冬季の正社員仕事は、経験と仕事ぶりもあって、現場仕事に加えて会社全体の組織づくりも担う。その分、責任も増しているといいます。夫のサポートに徹する「農家」仕事も、「あじまん」でテキパキ腕をふるうことも、夕子さんが時を重ねるなかで培ってきた日常だ。その現在進行形の日々を全力で楽しみながら、小さな夢も抱く。「パンを焼くのも好きなんです。いつか息子も一緒に、イチゴ農家をやりながら酵母のパンを焼いて提供する。そういう将来もいいなと想像しています」。
夕子さんのように、夫の理解があること、夫婦間の役割分担がきちんとできていることも、女性が柔軟に働き生きるための重要なポイントかもしれません。
冬季限定の仕事との兼業は農家ならでは、と思えそうですが、少し想像してみてください。例えばみなさんの働き方を、期間で異なる仕事をしたり、短時間勤務やフレックスタイム制にシフトできたらどうでしょう。子どもと過ごす時間を確保できたり、新たな仕事に挑戦できるかもしれません。可能性は広がりそうです。それぞれに置かれている場や状況があることでしょう。それでも、いまを、自分らしく働く。それは、自分自身も家族も幸せにすることなのかもしれません。
<撮影協力>
「風の森のログハウスカフェ オルファ」
夕子さんのお父さまがセルフビルドした、気持ちのいいログハウスカフェ「オルファ」。妹さん夫婦がカフェ運営をされています。
余談ですが取材当日、お父さまご自慢の美味!カレーをご馳走になりました。
住 所:〒997-0756 山形県鶴岡市市東目字河倉63−3
電 話:090-9030-1579
営業時間:11:00-15:30
定休日 :日・月曜日+第1・3・5火曜日(11月末頃~4月中旬 冬季休業)
(オルファのブログ)https://ameblo.jp/cafealfa/
(facebook)https://ja-jp.facebook.com/pages/風の森のログハウスカフェ-オルファ/668887663199501
〈令和2年度山形県多様な働き方情報発信事業〉